2014年9月5日金曜日

S8103_教育社会学1

~使用教材~

『教育の比較社会学』



~リポート作成の際に注意した点~





~S8103_教育社会学1_リポート作成例(評点:A)~

学歴社会とは何かを明らかにし、高学歴化が進行すると教育はどのように変化するのかについて、学力の視点から述べてください。


まず初めに、学歴社会を「社会における社会的・職業的地位などの配分の基準として学歴が重視される社会」として定義する。歴史的には明治維新以降、効率的な人材養成や登用のシステムとして学歴社会がその役割を担ってきた。すなわち、富国強兵に代表される国家目標達成のために幅広い分野でのリーダーが求められ、この目的のために幅広い諸階層の子どもを集めて競わせることで資質を持つ人材を見つけだして社会的・職業的地位へ配分したのである。
現在でも学歴社会はその役割を変化させながらも、受験を基点とする競争原理や学位に対する社会的価値の信頼感によって、学生の学力水準を押し上げることに寄与していると考える。社会の要請からも、望ましい人材の獲得のために何らかの選抜・判断基準が必要であり、その人物の全てではありえないにしても、能力のある一面を反映する要素として学歴を採用することは妥当である。

学歴をその人物評価の基準として使用する場合には、さまざまな観点が考えられる。ここでは主に大学卒の学歴を5つのパターンに分類する。
(1) 漠然とした社会的評価
これは、大企業への就職率、偏差値、国家公務員試験合格者数、司法試験・公認会計士・医師などの国家試験合格者数、あるいは大企業社長輩出率などによってはかられる漠然としたものである。ある種の学歴をひとつの集合として捉え、能力の傾向を示すものとして評価する。
(2) ブランドとしての大学
これは、同大学の生徒を同じ性質をもつ人材の集団として捉える観点である。広義の意味でのブランドはその大学に対する先入観や伝統的なイメージを意味するものであるが、狭義には何かしらの実績、すなわち(1)で述べた偏差値や就職先などに基づいて形成されるイメージであると考える。
(3) 人的資本論
知識・技術の水準が学歴によって表現されると考える理論である。大学の保有する人材の質が高い場合には、そこで教育を受ける生徒も高い水準の知識と技術を身に付けていると考えられる。大学レベルと学生のレベルが比例すると考える観点である。
(4) スクリーニング仮説
これは、学歴がその人物の訓練可能性を表すとする考え方である。企業が人材を採用する際、即戦力を前提とせず、終業後の訓練を通して必要なスキルや知識を身に付けてもらうことを想定する場合、より効率的に学習し知識や技術を習得できる人材を見つけることが必要である。その基準として訓練可能性を表す学歴を採用する。
(5) 統計的差別理論
これは、学歴別の企業への貢献度を調査し統計的に評価する方法である。似た学歴をもつ集団が共通の性質をもつと期待して、過去の統計と同様の貢献をなしうると捉える。
以上のように、学歴社会とは学歴をその人物評価の基準として社会的・職業的な選抜に利用するものである。

一方で、高学歴社会とは、高校卒業後の高等教育機関への進学率が50%を超える社会であるとされる。学歴社会では、上記のような観点を用いて人物評価の基準として学歴を利用してきた。しかし、高学歴化が進むと学位取得者が増加するため、単純に学位の有無だけで評価することはできない。したがって、同等の学位であっても、その価値は大学間で格差を広げてゆくものと考える。
上述の学歴評価の観点(1), (2)は現在でも学位そのものよりも大学名が価値基準のウエイトを占めており、その大学の輩出する人材の貢献と実績が高学歴化の中でより注視されている。よって、大学教育も個性的・応用的な構成に変化し、大学ごとに特色があり企業への就業後にアドバンテージを発揮できる人材の育成が重要である。また、大学ごとの評価格差が広がることで、(3)の人的資本論はより顕著になると考えられる。大学受験は卒業後の進路を見越して、設備や教育の特徴などを考慮して選ばれる傾向が強くなり、その結果高学歴化における人的資本論は大学のレベルだけでなく実施される教育の特徴、どのような特質の人材を育成するのかが加味されるようになる。一方で、企業で求められる能力は専門化・細分化しており、同業の職歴をもつ場合を除いて、就業後に企業内で研修ないし学習を重ねて能力を上げていくのがふつうである。よって、(4)や(5)の観点も依然として有効であると考える。

高学歴化により学位取得者の割合が増えると、学位の質が問われることは必然である。そして学位の質とは、上述のように就業後の訓練可能性や貢献度などの実績を意味する。したがって、大学卒業後も企業内での研修や自己学習による学歴の継続が必要になる。また、変化の激しい現代社会において、学位取得時点での能力ではその後要求される内容には対応できない。この意味でも学習の継続は必須であり、学力・スキルの向上を図る必要があると考える。
大学卒業時点での期待度評価あるいは大学ブランド評価から、その後の個人実績評価へ移行する上で、さらなる学歴形成として大学院への進学がある。職業訓練の場、専門知識や技術の習得の場として大学院への進学は有効である。その他、ビジネス・スクール、アカウンティング・スクール、メディカル・スクール、ロー・スクールなどの選択肢も考えられる。

かつての終身雇用が常識であった時代は変わり、就業後の人材の流動が激しい現代において、能動的なキャリア形成のためにはこのような大学卒業後のさらなる学歴形成や積極的な能力開発は必要な取り組みである。しかし、進む高学歴化の中で留意すべきことも多い。その一つは、高い自由度をもつ学力形成環境下での、ゆとり教育にみられるような学力の二極化である。ゆとり教育では、創造的・応用的な学力形成のために総合的な学習の時間にみられる自由度の高い学習環境が整備された。しかし、それらを有効に活用するのは難しく、状況によっては学習時間の減少による学力低下も懸念される。高学歴化が進んだ場合、学習期間の長期化に伴い学力の二極化の幅は大きくなるものと考える。これによって労働環境やキャリア形成の格差が広がるという問題が考えられる。もう一つは、学歴差を理由にした差別的な雇用条件の設定である。現在でも最終学歴によって雇用形態や賃金の上限が設定されるケースが見受けられる。しかし本来学歴の評価は、前述のように企業への雇用時にその後の期待度の見積もりに利用することに有用性があり、賃金の頭打ちの理由とするのは適当ではない。高学歴化によってこの傾向はますます強くなることが懸念され、企業側にも学歴の建設的な評価が求められる。すなわち、就業後の貢献度を正当に評価し、また研修によるスキルの向上や自己学習の結果の応用などを新たな学歴として評価し、従来の学歴評価を常に見直していく必要がある。

学歴社会はもともと社会的・職業的地位などの配分の基準として利用されていた。そしてそれは現在でも企業採用の際に貢献期待度評価として似た観点で利用されている。しかし、高学歴化が進み学力格差が広がる可能性を増す中で、継続学習が必要になると同時にその取り組みの評価も行われるべきである。継続して形成される学歴、あるいはその応用である職歴の評価は、純粋に貢献度によって行われなければならない。学校歴のみでその人物の職業的地位や待遇が制限されるのは本来の方法ではなく、常に公平で建設的な運用が期待される。健全な学歴評価が行われる社会においては、教育に対する信頼感も大きくなり、学力の向上も期待され変化の大きい現代社会においても柔軟に対応し得る力を多くの人が得られると考える。


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