2010年5月3日月曜日

S0528_道徳教育の研究

~使用教材~

『道徳教育の基礎』




~リポート作成の留意点~






~S0528_道徳教育の研究_リポート作成例(評点:A)~

「生きる力」の育成と道徳教育について述べよ。

1.「生きる力」について
今日の教育目的である「生きる力」は次の3つの能力、即ち「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」から成る。ここでは、これらの能力についてその役割と各能力の相互関係について考察する。
「確かな学力」とは、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力の基盤である。これは人間の文化的社会的発展を直接的に担うものであり、また今日の科学技術の進歩、情報化の発展やグローバル化の進展など、変化の社会に対応して行く上で必須となる能力といえる。したがって、現状の教育もまたここにその重点を置く。そこで求められるものは論理的思考力、コミュニケーション能力、情報処理・活用能力と、これらを複合的に活用した問題解決能力である。
ここで重要なのは、培った問題解決能力を正しく適用できる要素、即ち社会の問題を自分自身の問題としてとらえ、よりよい社会の発展に役立てようとする公共心が伴っていることである。人々と共生していくのに必要な公共心は、社会についての知識や理解とともに、他者を尊重し思いやる心や共感する心に根ざし、次に述べる「豊かな人間性」に類するこれらの精神は「確かな学力」にバランスして育まれる必要がある。
「豊かな人間性」について、これは自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などを意味する。協調や共感は他者との協力関係を円滑にするのみならず、人生そのものに意味を与えるものである。なぜなら人は他人のために生きることでのみ、その喜びや生きがいを実感することができる関係存在なのであって、自己に固有の人生の意味もまた他者との関係の中にのみ見出すことが出来るからである。他人を思いやる心や感動する心を育むには、自分とは異なる文化や価値観を理解し、それらに敬意を払って共生していく姿勢と共に、自然への美意識や芸術に対する豊かな感性など、人々との心の共有点を持つことが必要である。これらは「確かな学力」を前提として、その上に認識されるものであり、その意味で「確かな学力」と「豊かな人間性」は相補的な関係にあるといえる。
「健康・体力」に関しては、人間活動の最も基礎を成すものであり、これなしに「確かな学力」や「豊かな人間性」を構築することは極めて難しい。したがって、「健康・体力」は生きる力を根底から支えているものである。

2.道徳教育の目標と内容
ここまでに「生きる力」の各要素は相互連関的な関係にあることを見た。即ち、「健康・体力」の充実を基礎として、そこに「確かな学力」を構築し、そこに「豊かな人間性」が意味を与えるという構図を意識しつつ、「生きる力」の育成にあたってはこのことを重視しなければならない。
道徳教育とは、「生きる力」を包括している「豊かな人間性」を育て、「生きる力」の連関を担うものである。この観点から、道徳教育の目標と内容を考察する。
小・中学校学習指導要領「第1章 総則」において、道徳教育の目標は次のように定められている。即ち、人間尊重の精神、生命に対する畏敬の念、豊かな心、主体性などを育成する基盤を養うことである。特に生命に対する畏敬の念について、これは生命の意味を問うときに求められる精神であり、生命のかけがえなさに気づき、生命あるものを慈しみ、畏れ、敬い、尊ぶことを意味する。これらを自覚することにより、他人を思いやる心やいたわりの心など「豊かな人間性」を育み、その上で「生きる力」連関の実現が可能となる。
したがって、道徳教育の一つの目標は、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を育てることといえる。
次に、この目標を達成する為に道徳教育はどのような内容を備えていなければならないかを考察する。
小・中学校学習指導要領「第3章 道徳」の「第2 内容」は、次の4つの視点を重点的に示している。
(1) 主として自分自身に関すること
(2) 主として他の人とのかかわりに関すること
(3) 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること
(4) 主として集団や社会とのかかわりに関すること
ここで、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を育てる為の内容は、(3)の担う部分が大きい。「主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること」の内容項目は、小学校及び中学校において共に次の3つが挙げられている。
(1) 自然や動植物への愛情の育成
(2) 生命の尊さ、大切さの理解
(3) 人の心の美しさの認識
道徳教育においては、これらの内容を学年段階に応じて指導しなければならない。小学校・中学校におけるその指導内容について次にまとめる。
~小学校~
第(1)の項目について
低学年:自然の中で遊んだり、動植物の飼育栽培の体験を通して自然や動植物に直接触れ合うことで、それらに対する優しい心を培う。
中学年:天候や季節の変化などに接し、自然のより大きな流れを知るとともに、その恐ろしさや不思議さにも触れ、理解を深める。
高学年:環境教育に関連して、自然と動植物とのかかわりやそれらとの共存について積極的に考える態度を育成する。
第(2)の項目について
低学年:動植物とのふれあいを通じて、動植物に生命があり、また自分自身にも生命があることを自覚させる。
中学年:動植物の死を通して、生命が限りあるものであることを知り、その尊さ理解させる。
高学年:生命が連綿と受け継がれてきたその連続性に気づかせることで、自他の生命の尊厳性について自覚させる。
第(3)の項目について
低学年:自然や音楽に触れて、美しいものに素直に感動する心を育てる。
中学年:芸術や歴史に触れて、人間の行為の中に見られる気高さに素直に感動する心を育てる。
高学年:美しさ、気高さに触れると共に、そこに畏敬の念を持ち、人間としてのあり方や生き方をより深いところから見つめ直すよう指導する。
~中学校~
第(1)の項目について
自然と人間とのかかわりを多面的、多角的にとらえ、自然を愛するだけでなく、保護し共存することを通して、自然の力の大きさを謙虚に受け止める心を育てる。
第(2)の項目について
中学生の時期には、自己の生命に対する有難さを感じることが少なくなる傾向がある。したがって、生命の尊さを再確認することが必要である。他者とのかかわりを通して、その生命の尊厳を意識すると共に、自身の生命もまた尊いものであることを認識させる。
第(3)の項目について
人間の弱さや醜さを認識するこの時期において、重要なのは人間がそれを克服する力を信じうるよう指導することである。人間が持つ強さや気高さを理解する為に、自分の持つよさを発見し自己価値感情を高め、誇りと自信ある生き方に目を向けられるように指導する。

3.まとめ
ここまでに、「生きる力」をなす3つの能力が互いに相補的な関係にあり、その連関が重要であること、またその連関を担うのが道徳教育の一つの役割であることを見た。前項には、その目標と内容を成長段階に即してまとめているが、実際には、道徳教育とは生涯に渡り繰り返し確認し、吟味し、高めて行く、能動的な自己教育である。
小・中学校の道徳教育においても、目標に対応した答えを賢くまとめることよりも、自身の正義に基づいて考え続けることの重要性を意識して指導したい。


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