2010年10月4日月曜日

S0534_教育相談の研究

~使用教材~

『学校カウンセリング入門』



~リポート作成の留意点~

下記作成例では、学校カウンセリングの基本的方法について述べていますが、それに加えてスクールカウンセラーや教師それぞれの取り組み方、スクールカウンセリングの効用について論じる必要があるようです。



~S0534_教育相談の研究_リポート作成例(評点:B)~

学校カウンセリングの意義、方法および今後の課題について述べなさい。


1.学校カウンセリングの意義
カウンセリングとは、自己を深く見つめ直させることにより、その人本来の自己を見つけ出すことがその目的の本質である。すなわち、カウンセリングが単なる話し合いや相談と異なるためには、それが自己の洞察を深め人格の統合をめざしたものであることが必要である。
学校カウンセリングにおいても、その目的は心の発達のバランスを保ち、精神の安定と人格の完成を促すことにあり、またその方法である受容的・共感的態度は教育相談においても有益なものとなる。
この学校カウンセリングの意義をふまえて、以下では心の構造についてまとめ、カウンセリングの種類と方法を考察する。

2.心の構造について
心には、生まれながらにして持つ欲求である「イド」、理想的な行動規範である「超自我」、そしてイドと超自我の間で実際の行動を決定する「自我」の3つの構造がある。
この構造の形成過程を簡単にまとめると次のようになる。すなわち、生まれながらには本能であるイドしか存在ない。しかし、外界を知覚できるようになると、その状況に応じて自身の行動を決定する必要が生じ、それに伴ってイドの中から行動決定の心理的な主体である自我が分化し始める。初期の自我は、イドから派生しイドの欲求に即して働いているが、徐々に現実に適応しやすい行動を選択・決定することを学ぶ。すなわち、外界からの刺激を受けて、その経験を記憶痕跡として自我の中に残しておくようになると、自我はイドから独立して、現実を吟味しいかにうまく現実に適応するかという「現実原則」に基づいて機能するようになる。さらに、この現実原則をより早く適切に機能させるためには、自我の中に外界知覚から得られた判断基準を規範化し、自我から独立させて自我の選択・決定を監視させるのが効率がよい。この自我から独立した判断基準が超自我である。
カウンセリングの目的は、人格の統合により、クライエントが自発的に自分で意思決定ができるようにすることにあるが、心の発達過程にある児童・生徒に対するカウンセリングと、人格が完成された成人に対するそれとでは、アプローチの方法が異なる。
次にそれぞれに対応するカウンセリングの種類とその方法について考察する。

3.カウンセリングの種類
カウンセリングには、治療的カウンセリングと発達援助的カウンセリングの2種類がある。
治療的カウンセリングとは、患者に対しセラピストが専門的な知識と技術を用いて、患者の症状や病気を治療するものである。治療的カウンセリングの対象は、主に神経症の患者である。神経症とは、苦悩、病識があり、その原因が自身の中にあると思う洞察力もあるがその原因を特定することができず、かつ治療意思がある状態を言う。治療的カウンセリングでは、原因が特定できない理由を、それが自我の無意識にあるからだと考え、無意識を意識化することにその目的を置く。このような手法は精神分析によるので、精神分析的カウンセリングとも呼ばれる。なお、精神分析は、イド・自我・超自我のバランスが固定化している成人が対象となる。すなわち、精神の成長・発達が見込まれない場合は、自我の意識・無意識の関係において治療法を検討せざるを得ない。
これに対し、発達援助的カウンセリングとは、イド・自我・超自我のバランスが流動的で発達的である児童・生徒が対象となる。したがって、学校カウンセリングと言えば、この発達援助的カウンセリングを指すことが多い。心の発達過程においては一時的にイド・自我・超自我のバランスが崩れることがある。特に思春期においては相対的にイドと超自我が大きくなり、自我がもっとも小さい状態となる。学校カウンセリングの主たる目的は、このバランスを修正し、発達を援助することにある。

4.学校カウンセリングの方法
発達援助的カウンセリングには、受容的カウンセリングと教育的カウンセリングがある。受容的カウンセリングとは、自我の発達未熟の場合に適用される。これに対し、教育的カウンセリングは、超自我の発達未熟の場合に適用させる。
自我未熟の場合、その原因は自我内圧の不足と自我境界の脆弱性が考えられる。自我内圧とは、自我にイドからの欲求が供給されていない状態であり、また自我境界とは外界刺激に対する耐性を意味する。周囲の人びとの過度の期待や要求あるいは禁止や制限が強すぎることなどが原因で、イドの欲求が自我へ供給されなくなると、自我の内圧が不足し、結果として他者との作用・反作用が生ぜず、自我のぶつかり合いがない場合は、必然的に自我境界は弱くなる。したがって、外界からの圧力がある場合には、できるだけ、その力を取り除き自己表現を促すことが必要である。
カウンセリング・プロセスにおいては、クライエントの悩みを時間をかけて聞き、その際には直接的な指示を与えたり指導をしないよう注意する。なぜなら、受容的カウンセリングは、クライエントを受容し共感することで自我の萎縮を取り除き、自己表現を促すことがその目標だからである。
次に超自我未熟の場合には、自我の発達未熟とは異なる対応が必要である。超自我が未熟であるかどうかは、自我がその行動を決定する際に、どの程度超自我の行動規範が反映されているかで知るしかない。超自我は、もともと初期の心的構造には存在しなかったものが、外的環境の判断規範を自我に取り入れることで形成されたものであるので、その発達援助は外界からの刺激が主なものとなる。またどの外的刺激は、超自我の機能を高めるものでなければならない。教育的カウンセリングとは、クライエントと言葉を介して、社会的にも道徳的にもどのような行動が望ましいかを、クライエントの考えを中心に相談していこうとするものである。
カウンセリング・プロセスにおいては、学校教育と教育的カウンセリングでは「評価」の有無に違いがあることに注意する。教育的カウンセリングでは、本来の自分の中に善悪の判断基準や社会規範が取り入れられることが目標であるので、評価のない環境で、ありのままの姿を認めていくようにしなければならない。

5.今後の課題
カウンセリングにおいては、受容的・共感的態度、いわゆるカウンセリングマインドが重要であり、これは教育指導にも共通するものである。しかし、教員の行う教育活動には、評価のないものは存在しない。したがって、評価しないことが重要な意味をもつカウンセラーの役割そのものを担うことは難しいと考える。現在、文部科学省は、スクールカウンセラーの活用調査研究事業の成果を踏まえて、スクールカウンセラーの全中学配置を目指しているが、活動の時間規定についての制限など、学校全体に深くかかわるための課題がある。また、精神的に健康な発達を促すために効果的であるという理由から、小学校への配置も今後検討すべき課題である。


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